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2007/11/15

南米産ワインが直面する温暖化予測の課題と日本の国際貢献

日経エコロミー(11/12):近藤洋輝氏のコラム

日本では南米のワインというと主に輸出用に栽培されているチリ産のものが手軽に入手できるのに、アルゼンチン産は少ない。ところが、アルゼンチン産ワインはアルゼンチン国内の消費が旺盛で、生産量はフランス、イタリア、スペイン、米国に次いで世界5位である。西部国境をなすアンデス山脈のふもとのメンドーサ地方などは乾燥した冷涼な気候で、アンデスの融雪水を利用した伝統的な灌漑設備によりブドウ栽培に適した条件が整っている。特に、本来はフランス・ボルドー近郊原産だが現在はヨーロッパでは生産量の乏しくなった「マルベック」が代表種である。

■アルゼンチンが直面する温暖化予測の不確実性

しかしこの地では、温暖化による将来の積雪量の変化が危惧されている。さらに国内の別の地域では、豪雨の増大傾向など、気候変動の影響とみられる状況が報告されている。また、ラプラタ川河口付近での海からの上流側にむけての風向・風速の変化による塩分増大傾向もある。このような変化による、畜産農業、水資源、漁業、沿岸生態系その他の分野での影響評価から適応までの研究を進めるには、何よりもまず信頼できる将来予測が前提であり、大きな課題に直面している。

独立法人国際協力機構(JICA)は、日本政府の途上国への協力事業を、基本的に2国間で実施している。現在、アルゼンチン政府からの要請に対応し、JICAでは、地球温暖化の影響評価・適応研究の能力強化に関するプロジェクトを進めようとしている。筆者も最近そのための現地の調査・協議に若干関わったので、プロジェクトの概要を紹介したい。

現在アルゼンチンでは、英国ハドレーセンターやドイツ・マックスプランク研究所などの、約300kmの大気解像度による全球気候モデル(大気海洋結合モデル)の実験結果を用いて、米国大気科学センター(NCAR)・ペンシルバニア大学や、英国ハドレーセンターなどの、公開された地域気候モデルをアルゼンチン地域に適用した予測研究をおこなっている。しかし、降水量などに関し、もとになる全球気候モデル間での差があり、現在気候の再現においてかなりの不確実性が存在する。

アルゼンチンには、西部国境に南北に狭い幅で広がる壁のような、特異な地形であるアンデス山脈があり、大気大循環は大きな影響を受けている。約300kmの水平解像度を持つ大気モデルではその影響を適切に表現することは限界がある。そのため、地域モデルを適用した結果にも不確実性が反映されることになる。

■日本の温暖化予測技術、アルゼンチンで貢献

10月28日のアルゼンチン大統領選挙では、クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル氏(左)が勝利。経済危機からの急回復で直面する社会のひずみ解消に取り組む[ロイター]

JICAのプロジェクトは、適応研究にとって必須な、地域的に詳細な将来気候予測情報に関する協力をまず行なおうというものである。日本では、すでに紹介した気象研などのグループが、20kmの超高解像度の全球大気モデルにより、地球シミュレータでの実験結果を得ており、アンデスの地形を表現し、その影響をより詳しくシミュレートすることが可能だ。したがって、詳細な地理的影響を表現するという特性も十分発揮できると思われる。

気象研究所のグループでは、実験結果のうち、モデルの全球的な結果、日本を含む東アジア域、北太平洋域などの地域に対する結果を主な解析対象としてきており、学術的にも興味のある、南米域のアンデス山脈などの影響下にある、アルゼンチンなど南米域に関する詳細な解析をするに至っていない。したがって、アルゼンチンの研究者による同地域に関するモデル結果の解析研究は、モデルの改善・高度化の上で、日本の気象研グループにとっても有益と考えられる。今回の滞在中に開いたセミナーでは、周辺国からも参加した関係者があり、関心が高かった。対アルゼンチンとの協議は、基本的に合意に達し、今後JICAのプロジェクトによる協力が実施される見通しである。

ところで、JICAの分野ごとの集団研修では、複数の途上国を対象にしている。気候を含む気象の分野でも、毎年世界の8~10カ国を対象に研修生を招き気象庁などの協力で数カ月実施している。筆者自身も断続的に講師として関わってきた。この研修は30年程続いている。

研修生は好感を持って帰国し、気象あるいは環境の部局の幹部になって国際的に活躍する人がかなりいる。実際、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の会議や、気候変動枠組み条約の締約国会議(COP)などで、途上国の代表者として出てきて「JICA研修でお世話になりました」と感謝されることが少なくない。日本での実際の研修や滞在の経験から、先入観のない親日的な対応を受けることも多く、それは得がたい成果といえる。上記のアルゼンチンへの協力事業でも期待されるところである。

■「表に見える」協力

日本の国際協力は、多国間のものについては国連などの国際的枠組みを通して、分担金などの形で資金拠出して間接的に参加するが、直接的な協力・支援事業については、原則として2国間で、つまり1つの国を対象に実施している。前回のコラムで紹介した世界銀行のプロジェクトの資金源は、「地球環境ファシリティー(GEF)」と呼ばれるもので、途上国が気候変動をはじめ地球環境の保全・改善に取り組むために負担する費用を賄うために、原則として無償で提供される基金だ。これは世界銀行が国連開発計画(UNDP)、国連環境計画(UNEP)と共に運用している。

世銀の担当者によれば、我々が協力した、カリブ海、ラテンアメリカ地域の適応研究プロジェクトの実際の資金は、日本からの寄与による所が大きいとのことであった。ただ、日本が多額の出資をしているにもかかわらず、世界銀行のプロジェクトとして実施されることや、科学的・技術的な面での協力は地味なものが多いこともあり、その役割が表には見えにくい。そんななかでも、2国間で実施さる上記JICAのアルゼンチンへの支援は、表に見える協力と言えるだろう。

◇解説映像「地球温暖化シミュレーション 1950 - 2100」

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