製油所から噴き出る煙と水蒸気が、低くたれ込めた雲にまで達している。灰色の世界で、ガスを燃やす炎がオレンジ色に揺れる。
北緯57度。カナダ・アルバータ州北部の町、フォートマクマレーが活況を呈している。「オイルサンド」という粘りの強い油と砂とが混じった地層が一帯に広がっているためだ。
石油の枯渇がささやかれるなか、世界が注目する最後の未開拓地。製油所の技術者は「ここで起きているのは現代のゴールドラッシュ」という。実際、オイルサンドは「黒い金」と呼ばれる。
近くにバファローもすむ寒帯林は伐採され、露天掘りの現場が雪原に散らばっている。黒い壁をショベルカーで崩し、巨大なトラックに土を載せる。深い地層からもパイプで吸い上げる。
真冬には零下40度を下回るものの、「泥道が凍った今からが輸送効率が上がる季節」だと聞いた。
国内外から労働者が吸い寄せられ、町の人口はこの10年で倍増して約6万5千人に。現場キャンプには2万人以上が住む。酷寒の地での重労働。月収は9千~1万カナダドル(約80万円)になる。
02年末、カナダのオイルサンドは原油の埋蔵量に算入されるようになった。原油の高値傾向で、採掘コストの高いオイルサンドも採算がとれ始めたからだ。カナダの原油確認埋蔵量は35倍の1790億バレルとなり、世界21位からサウジアラビアに次ぐ2位に躍り出た。
カナダ石油生産者協会のストリンガム副会長は「突然、ものすごく大きな関心がカナダに集まった」と話す。
石油メジャーも飛びついた。今の採掘の中心はカナダの大手2社だが、1社はエクソンモービル系。最近はBP、シェルのほか、中国、韓国などからも進出の動きが相次ぐ。日本も小規模ながら90年代から入っている。
現在の生産量は日量140万バレル、15年には日本の1日の消費量にあたる約400万バレルを超すと予測されている。
最近の原油急落で新規採掘を延期する動きもあるが、開発業者協会のアービング代表は「長期的にはオイルサンドの時代が始まった」とみる。
しかし、オイルサンドは湯で砂と油を分離するため、生産段階で従来の石油の2~3倍のエネルギーがかかり、より二酸化炭素を多く出す。
排水池は計130平方キロにも及ぶ。管理が不十分な所では油や水銀、揮発性の有害物を含み、「川や湖を汚染し、住民に健康被害が出ている」という告発もある。「ダーティーな(汚い)石油」だ。
京都議定書でカナダは日本と同じ「温室効果ガスの90年比6%削減」を義務づけられているが、オイルサンドの影響も大きく、すでに30%近く増えている。政府は昨春、早々と「削減目標は守れない」と断念宣言をした。
オイルサンドは、採掘困難な部分も含めた全埋蔵量では1.7兆バレルあり、従来の石油の確認埋蔵量1.2兆バレルをしのぐ。地球上でもう一つの巨大埋蔵地であるベネズエラのオリノコ川流域も全埋蔵量1兆バレルと言われる。
温暖化対策で、風力や太陽光といった「クリーンエネルギー」に向かう流れがある一方で、石油の限界は、世界でも日本でも石炭使用の増加を招いている。そしてオイルサンド――。20世紀の象徴だった「石油文明」は分かれ道にある。
(朝日 12/1)
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