日本経済新聞編集局科学技術部編集委員・滝順一氏のコラム「エコうまに乗れ」(日経エコロミー 3/23)
英国の本拠地を置くHSBC(香港上海銀行)はフォーブス誌の2008年世界有力企業番付で1位となった世界最大級の金融機関。環境問題への取り組みは先進的で、事業で発生する二酸化炭素(CO2)を排出権の購入などで相殺し、計算上は排出ゼロとする「カーボン・ニュートラル」を達成した。また融資の審査に環境への影響評価を取り込むことにも熱心だ。山田晴信HSBC在日副代表・副CEO(最高経営責任者)に環境問題に取り組む基本理念などを聞いた。
――カーボン・ニュートラルを実現したと聞きました。
「2005年に達成し維持している。事業活動での排出源は、オフィスの電力消費と海外出張に伴うジェット燃料の消費が大きい。総排出量は年間約80万トン、従業員は世界で約30万人いるので、一人当たり3トン弱になる」
「このうち4分の3の60万トン以上を中国での小規模水力事業への協力など5つのプロジェクトを実施することを通じ、排出権を獲得し、オフセット(相殺)した。残りはエネルギーの節約などで対応した」
――環境問題に対する取り組みは日本の金融機関に比べてかなり踏み込んだものを感じますが、基本理念はどこにあるのですか。
「環境問題への取り組みは、日本では社会貢献や慈善という意味あいで語られることが多いように思う。そこには業績がいいときは積極的だが、本業が悪いときはスローダウンしてもやむを得ないというニュアンスがある。私たちは、地球環境の保全が本業そのものだと認識している」
「社会が持続可能でなければ銀行業が持続することすらできない。HSBCでは環境への取り組みをCSR(企業の社会的責任)ではなく、コーポレート・サステナビリティ(企業の持続性)の一環ととらえ、企業の存続がかかっていると考えている」
「銀行業は、多様で持続的な社会を実現し維持するための一手段にすぎない。利潤を生むことは必要だが、環境や社会の犠牲の上にあってはいけない」
――理念を実現するのにどのようなことを。
「融資の決定プロセスにコーポレート・サステナビリティーの理念を反映するシステムをつくり込んでいる。『サスティナビリティ・リスクマネジャー(SRM)』という職種を審査部に設けたのがそれだ」
「融資の審査は財務的な審査が一般的だが、SRMは融資案件をサステナビリティーの観点からチェックする。SRMの承認を得ることが融資決定に不可欠とした。SRMは環境問題の専門家ではないので、外部の専門家や認証機関の見方を判断材料にする」
「融資に基づく事業活動の70%以上がサステナブルであると認証機関から認められ、残りの3割も違法性がないと認められないと融資ができない。判断は必ずしも機械的ではなく、現状の評価が7割に満たなくても、企業が『クレディブル・パス』と呼ぶ実行計画を示し、7割以上を達成するという合意を取り付ければ融資を続行できる」
「大事なポイントは、SRMは法人営業部に属していないということだ。営業部門にあると、例えば営業部長が営業優先の判断を下すかもしれない。営業部と審査部の意見が衝突した場合、案件は上位のマネジメント、究極的には本社レベルで営業と審査のトップ同士が合意形成するしかけになっている」
――クレディブル・パスを実行しないと融資引き揚げになるのですか。
「現実に融資引き揚げとなった案件は耳にしていないが、チェックで問題になり、融資を実現するため事業の見直しを迫ることになった案件はある」
――金融業界には「赤道原則」と呼ばれる融資ガイドラインがあるそうですね。
山田晴信HSBC在日副代表・副CEO(最高経営責任者)
「赤道原則はプロジェクトファイナンスにあたって環境の観点から融資の可否を判断する業界共通の物差しだ。2003年に当行も採択した。これは新規の開発プロジェクトを特定の国で起こす時の融資判断に用いる。HSBCではプロジェクトファイナスに限らず、エネルギー資源や金属資源、森林開発など5つの業種の融資にあたってサステナビリティーの観点から判断するガイドラインを持ち、判断基準としている」
「さらに昨年12月に『気候原則』と呼ぶ新たなガイドラインを決めた。これは融資だけでなく投資や資産運用、保険など金融業全般での包括的な原則となる。クレディ・アグリコルやミュンヘン再保険など、当行も含め5金融機関が採択している」
――規則は営業活動を自ら縛ることにもなりますね。
「その通りだ。利益を得るチャンスをみすみす見逃すことにもなりかねず、営業部隊には『石橋をたたく慎重な判断の末に、石橋をたたき壊すようなことになる』との声もある」
「しかし保守的な経営姿勢が中長期では大事なこともある。現在の金融危機でHSBCが比較的傷が浅いのは、証券化商品への取り組みが遅れているなどと言われても実体経済にかかわりのある分野への融資を重視してきた結果だ」
――そうした経営姿勢は何に由来するのですか。
「ステファン・グリーン会長の考えが反映しているように思う。また取締役会の下に『コポレート・サステイナビリティ委員会』を置き、経営の高いレベルで活動をチェックしている。メンバーの3分の2は社外取締役だ。こうしたガバナンス(企業統治)の体制が高く評価されて、2008年にセリーズという国際的な環境団体が選んだ気候変動への金融機関の取り組み評価で最高点を得ることができた」
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