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2009/03/11

排出権ビジネス大国 中国にも悩み

国際協力銀行(JBIC)環境ビジネス支援室長・本郷尚氏のコラム(日経エコロミー 3/10)

世界最大の排出権供給国といえば中国。その市場シェアは50%以上と圧倒的だ。世界規模で効率的に温室効果ガス削減を進める仕組みとして導入された国際排出量取引も、中国なしには成立しないと言っても過言ではない。

■目標達成は中国頼み

2月の終わりに北京で開かれた排出量取引の国際会議「中国CDMサミット」で、排出量取引を管轄する中国発展改革委員会の責任者高広生氏は「これまで中国政府が承認した1847件の事業のうち国連に登録されたのはまだ419件。これからも中国が京都クレジット供給の中心であり続ける」と自信たっぷりに演説した。さらに事業化にあたって先進国には技術移転の促進を求める一方、「外国企業任せではなく中国企業が責任を持つべき」と中国企業にも檄を飛ばす。

会議では、北京に駐在する欧州委員会の気候変動問題担当のギスレフ氏も、EUの意欲的な温室効果ガス削減の中期目標を説明した。2020年までに20%削減する場合に必要な排出量取引は32億トン、同30%削減の場合にはその倍の量が必要になる見込みという。排出量の供給国として中国の存在感は大きく、国際排出量取引を前提とした厳しい削減目標達成は中国頼みという情勢が垣間見えた会議でもあった。

■最低価格が足かせで排出権が売れない?

中国にとって明るい未来ばかりにみえる排出量取引だが、その足元で思わぬ異変が起きている。金融危機による景気低迷で排出権需要が減少し、さらには価格の暴落を招いている。日経JBIC排出量取引参考気配でみると、最近の価格は昨年の最高値である7月の4割程度に落ち込んでいる。

中国政府は事業者が十分な収入が得られるように、中国企業が売り出すいわば「卸値」に、あらかじめ最低価格を設けている。国際的な排出権市場の活発化にあわせ最低価格を次第に引き上げてきた。それが最近の相場の下落で、国連が発行する「完成品」としての排出量価格を卸値が上回るという逆転現象が起きている。

本来、企業が売り出す排出権価格は、事業が計画通りに実施されるか、あるいは国連の手続きがすべて順調に終わるかなど不透明な点もあるので、国連が発行する完成品の排出権よりは安くて当然だ。中国政府は2009年に入り最低価格を引き下げたが、市場価格の低下は早く、急激に差は縮小し、さらには逆転現象すら起きたのだ。高氏は排出量の取引価格は「排出量を生産するコストをもとに決めるべき」とし、「生産コストを考えれば1トン当たり10ユーロ以上が適当だ」と価格低下を懸念する。

しかし、実際に事業に取り組む企業は「最低価格を引き下げないと誰も買ってくれない」と突き上げる。これに対し高氏は「ポスト京都の仕組みが出来上がれば需要は強くなる」「オバマ政権は排出量取引に前向きだ」などと強調し、将来の値上がりは確実だと言わんばかりだ。

企業からは、最低価格を市場価格にあわせて変動させるなどの提案もあるが、「中国企業の利益を守るために必要だ。また価格も上昇している。仕組みを変える必要はない」と一歩も譲らない。売れないのは困るが、かといって最低価格を引き下げれば市場はそれに反応してさらに下げるからだろう。価格低下の悪循環をおそれ、身動きがとれないでいる。

■ユーロ安で中国企業の収入減

もう一つの悩みは、金融危機の影響で下落を続けるユーロだ。国際市場はユーロ建てが基本だ。排出権価格自体の下落に加えて、人民元が半年で20%も強くなったので事業者の収入は大幅に減る。日本の購入者はユーロ安で排出権の購入費用が減るという恩恵を受けるが、輸出側の中国企業は手取りが減る。金融危機は排出量取引に力を入れる中国企業にとってダブルパンチとなっている。

中国での事業の遅れが長引けば排出権の供給が減少し、中国産クレジットをあてに取引する排出量取引の仲介者だけでなく、削減目標のため京都クレジットの確保を必要としていた企業や国の作戦にも狂いが生じる。一方、景気が回復し需要が一気に市場に殺到すれば価格は高騰するだろう。世界規模で温室効果ガスを効率的に削減する手法として期待される排出量取引の将来には暗雲が立ち込めている。

■将来は輸出余力がなくなる恐れも

12月のコペンハーゲン会合での合意を目指し、2013年以降の「ポスト京都」の国際的枠組み作りの交渉が進んでいる。IEA(国際エネルギー機関)の見通しでは、中国のエネルギー消費は2030年まで、年3.2%の割合で増え続ける。日本やEUは0.5%以下の伸びにとどまると見られており、中国は世界平均の1.8%を大幅に上回ることになる。

中国のエネルギー消費は生活水準向上のために不可欠であり、だから総量規制には強く反対する。しかし中国も、エネルギー消費が増え続けてよいと思っているわけではない。国際エネルギー市場にはこれだけの増大を受け入れられない可能性があり、11次5カ年計画でも省エネを大きな柱と位置づけている。

省エネ投資を促進する手段の一つとして排出量取引を検討する動きもあるようだ。つまり、省エネ補助金としての排出権が注目されているのだ。これに素早く反応しているのが、排出量取引所の設置を巡る動きだ。

北京、天津、上海などで稼働に向けて動き出したが、どのようなクレジットを取り扱うか、誰が購入者なのかなど仕組みの詳細はまだ決まっていない。走りながら考えるが、国内での排出量取引も狙いの一つだと関係者は語る。

そうなると新たな問題も起きる。中国で生産された排出量が輸出されなくなる可能性も考えなければならない。つまり中国国内で二酸化炭素排出量抑制の対象となった企業が大量に排出量を買うことになれば、輸出余力がなくなるということだ。中国の二酸化炭素排出量が減ることは、気候変動問題にとってもエネルギー問題にとっても間違いなく良いことだが、排出量取引の需給が逼迫する恐れもあるのだ。10億を超える人口で高成長を続ける中国の動きからはやはり目が離せない。

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