【プレジデントフィフティプラス 2009年4.16号】
自宅リビングのテーブルには、大量の介護付き老人ホームのパンフレットが並べられている。かつて、今年78歳になる親のために集めたものだ。
「母が証券会社のいいなりにならなければ、安心して老後を過ごせる環境が手に入るはずでした……」
苦々しい表情でこう語るのは、都内に住む長塚孝夫さん。彼の母親が大手証券会社を通じて投資信託を購入したのは2年前の夏だったという。購入総額はなんと約6200万円だ。営業マンのいいなりに国内株や中国など新興国に投資するファンドを中心に回転売買が行われ、解約したときには2400万円にまで縮小していた。
証券会社の口座には、運用資金以外のお金は預けない
山梨県で一人暮らしをしていた母親は、都内に介護付き老人ホームを探して住む予定で自宅を売却していた。6200万円は、自宅の売却資金と夫が残した遺産だった。
「取引していたのが地元の信用金庫だったため、都内で暮らすには不便なので、亡くなった父が口座を持っていた証券会社にお金を預けていた」
単なる資金移動のために利用しただけなのだが、証券会社の営業マンは、そんな事情はお構いなしに執拗な営業トークを並べ立てたという。
「株が上がっています。今、投資信託を買えば1年後には老人ホームを買ったうえに、息子さんにも遺産を残せるかもしれませんよ」
30代の営業マンの熱心な言葉に、500万円で投資信託を購入した。まだ相場が好調だったこともあって値上がりし、その後も勧められるままに投信を買い、結局は6200万円全額を投信に突っ込んでしまった。しかし、値上がりしていたのは購入から半年にも満たない期間だった。その後はほとんどのファンドが値下がりするばかり。
「新しいファンドが出たので、乗り換えませんか。悪いようにはしません」
不安になった母親が、担当営業マンに聞くとそう話したという。次々にほかのファンドに乗り換えたものの、サブプライム問題が本格化して、世界的に相場環境は悪化し、長塚さんが母親から相談を受けたときは、資産が半分近くに減っていた。驚いた長塚さんは、一刻も早く解約すべきだと伝え、母も同意した。ところが、「今売ったら老人ホームは買えませんよ。私も精一杯努力しますから頑張りましょう」という営業マンに逆に説得されてしまったという。
親身になっているそぶりを装いながら、最後はそっけなく突き放す――。これは女性客を口説く際のホストの鉄則だと聞いたことがあるが、同じ手口だ。今年になって、売却することに納得した母親は、証券会社に向かった。1時間後、長塚さんに母親から電話が入ったという。
「営業の人が何度も謝って、もう一度チャンスをくれませんかというのだけど、半分だけ残しちゃだめかね……」
恋はまだ冷めていなかった。
「母の老後を狂わせた営業マンを八つ裂きにしたい気持ちでいっぱいですよ」
と、長塚さんは激しく怒っている。
長塚さんの友人、西田義幸さん(仮名、52歳)は変額年金保険を購入して、老後に備えた資金をかなり減らしたという。
「早期退職で約2000万円の退職金が出た。転職先の会社は契約社員なので退職金がない。これでは老後資金が心細いと思って銀行に相談しました」
銀行の窓口担当は「元本保証がついているので安心です」といいながらパンフレットを広げたという。それが変額年金保険だった。この商品は預けた資金をファンドで運用、結果次第で受け取る年金額が変化する商品だ。銀行で扱う多くは運用結果にかかわらず支払った保険料の最低保証機能がつく。
「いろいろ説明されたのですが、よくわかりませんでした。ただ、預金しても増えないし、銀行が扱うものなら危険はないだろうと思ったのです」
娘に契約書を見せたところ、「投資信託と同じで元本割れすることもある」といわれて愕然とする。そんな商品だとは聞いていないと銀行に駆け込んだが、相手は「説明した」の一点張り。解約を申し出ると投資額の7%、140万円の解約手数料がかかるという。そんな話も聞いてないといっても、相手は聞く耳を持たない。悩んだ末に解約を見送ったが、サブプライム問題などで株価は下落。運用資金はどんどん減ってしまった。
「とにかく満期まで持つしかない」と、諦めかけた矢先、保険会社から通知が届いた。資産残高が下限の8割を下回ったため、運用をストップする。預けたお金を15年間の年金で受け取るか、解約かを選択しろという。
「解約しました。戻ってきたのは1400万円です。売るときは美味しい話ばかり。人が損をするとそれは契約だという。こんな詐欺みたいな商品を売っている連中とはもう関わりたくありません」
投資家保護が強化されているが、まだ道半ば。日本に健全な市場が育つまで「敗戦記」に終わりはない。
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